燃え盛る火炎の柱。
終わった。これで森の探索は終了。
気が抜けた瞬間、影が走る。
「ウソだろ?」
 影は火の粉を撒き散らし奥へと駆け抜けた。
「しぶといわねぇ。」
 ラビットが呆れた様に奥を見て歩き出す。
「だな。次で終わりにしよう。」
食いちぎられた剣を見て、
「おい、ラビット。一本貸してくれ。」
 鞘にしまい、ラビットに手を差し出す。
ラビットはちょっと考えてから考えてから、
「絶対に返しなさいよ。」
「分かってるよ。」
 渡された剣は軽く、持つだけで何でも斬れそうな気がしてくる。
「凄いな。」
「でしょ、でも剣に使われてはダメよ。」
 その目は真剣だ。
「任せろ。」
 衝立の向こう。狐女が突き破った壁にはぽっかりと穴が開いている。
様子を窺いながら奥へと足を進める。
そこは丘の様になっており滝が流れ小川となり池が広がっている。
その周りには花壇があり鮮やかな花が咲いている。
「……どこにいった?」
 周囲を確認するが狐女は居ない。滝の辺りまで進むが見当たらない。
「ユイン様、無事ですか!?」
 キカの声が響く。
「ああ、俺は無事だが。」
 振り返るとレオンやロナもこっちに向かってくる。
そして、その後に、
「レオン!」
 狐女が……いや、巨大な狐が壁に張り付きその大きな牙をレオンに向けていた。
俺の声に全員がレオンを見る。その上からレオンを狙っている狐女にも気付く。
狐女はもう人の姿ではなく、狐そのものの姿だった。
駆け寄るが間に合いそうに……。
無防備なレオンを凶悪な狐女が飛び掛る。
レオンの姿が一瞬見えなくなる。
「う、うそだろ……、な、レオン?」
足が止まり、思考が停止する。
「ぬぅぅううん!」
 野太い声が響き狐女が飛んでいく。
狐女は着地しその視線をレオンに向ける。
俺もレオンを見る。
「卿!」
 レオンの側には卿がその大きな斧を持ち立っていた。
「王子……先ほどはとんだ無礼を。」
「いや、そんな事よりも。」
「そうですな。今はあの化け物退治ですな。」
「愚か者めが……。」
 狐女が憎憎しげな声を上げる。
「ふん、よくもワシを操ってくれたな。その借りを返してやろう。」
 まるで物語にありそうな狩人と悪い狐の様な構図。
「さて、観念しろよ。」
 俺、キカにロナ。卿にラビットとレオンが狐女と対峙する。
狐女は牙を剥きチャンスを窺っている。
 低い唸り声が響き狐女が低く身構える。
「行くぞ。」
 誰とも無く声を掛ける。
向こうが飛び出す前に、俺はグッと足に力を込めて一気に飛び出す。
俺が狙うは……牙!
 凶悪な牙を切り落とす。そのまま返して胴を払う。が、空中で体を捻り避けられる。
俺に続いて攻勢に出たキカ達。ロナの槍が足を払いラビットが腕を斬りつける。
キカの拳が顔に入り卿の斧が頭を打ち据える。
そして狐女の体勢が整う時には俺達は距離を取り、再び隙を窺う。

「しぶといな。」
 狐女はずっとレオンを狙っている。
それは俺達にとっては闘いやすいんだが、攻撃が通じにくく反撃を受ける。
それでもダメージを与え続けて狐女は立っているのもやっとって感じなんだが、俺達もボロボロだ。
俺は肩を切られたし、ラビットは先ほどから左腕が下がったまま。
ロナの槍は見た目で分かるほど曲がっているし卿の斧は刃の部分がギザギザに欠けている。
レオンを守るように闘っているキカも足を引きずっている。
 まだまだその目には憎悪が燃えている目をレオンに向けている。
狐女の体が低く身構える。もう何度も見た体勢だ。その視線はレオンに向けられている。
それを見て俺達も構える。飛び出すと同時に俺達も飛び掛る。何度も繰り返したんだ。
タイミングを間違える事はない。
 そう思った。
一瞬の気の緩み。それが頭にあった。
 しまった。
そう思った時には狐女は俺を押さえつけていた。
大きな牙は折れているが、俺の体を砕くにはまだ充分な顎が残っている。
剣で牙を押さえる。剣が牙に食い込んでいく。
このままいけば牙は斬れそうだが……その前に俺の力が尽きそうだ。
腹を蹴ってもびくともしない。荒い鼻息がくずぐったい……なんて考えてる場合じゃない!
「ユイン様!」
 足を負傷しているキカが狐女の顔を蹴り上げる。
力が入らないのか、足は弾かれる。痛みに歪む声が聞こえる。
「退きなさい!」
 ラビットがロナが卿が狐女に飛び掛る。
狐女は俺から飛び退き、そして一人力を溜めているレオンに向かう。
「レオン!」
 叫ぶ。レオンは顔を上げて事態を理解する。
狐女が飛ぶようにレオンに迫る……それを見た俺達も狐女の後を追う。
間に合いそうに無い。しかし追わなければレオンは……。
「もうおしまいです!」
 レオンの扇が高らかに上がる。そしてレオンの周囲が輝く。
徐々に狐女の体が白く染まっていき、そして動きが止まる。
「ふぅ……。」
 額の汗を拭いレオンが笑う。
「これでこの森の異常も収まるでしょう。」
「終わったのか……?」
 まだ信じられない。今目の前で起こった事なのに。
「はい。カケラはこの通り。」
 レオンが触れるソレは狐を象った氷像。
数分前まで俺達を苦しめていたあの狐女の姿そのままだ。
「さぁ……散りなさい。」
 氷像は砕け散った。
そして森に咲き誇っていた鮮やかな花は散り豪奢な建物は霧と消えた。
鮮やかな景色は消え去り、鬱蒼とした森の奥深くに俺達はいる。
「さぁ、帰りましょうか。」
 疲れた様な笑顔のレオン。その足元に、
「キミも一緒に、ね。」
 子狼がちょこんと座っていた。

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